軟骨の科学

ここでは、私が研究を行ってきた軟骨の研究を中心に、『軟骨って何?』という疑問を解説します。少々難しい話になるかもしれませんのでご興味のある方はどうぞ!

軟骨とは?

 軟骨は非常に細胞成分の乏しい組織で、その90%以上が細胞を囲む細胞外マトリックス(ECM; Extracellular Matrix)で構成されている。その細胞外マトリックスは、2大構成成分であるプロテオグリカン会合体と、コラーゲン繊維で形作られている。プロテオグリカン会合体は、主にヒアルロン酸(Hyaluronan)、アグリカン(Aggrecan)、リンク蛋白(Link Protein)で構成され、軟骨特有の固さと水分の保持に役立っているとされる。また、コラーゲン繊維(II, VI, XI, IX)は、軟骨が荷重に耐えうるためのtensile strengthを供給しているとされている。

 さらに詳細に観察すると、アグリカンには無数のコンドロイチン硫酸の”ヒゲ”が存在し、水分保持に重要な働きを演じている。つまり現在市販されているコンドロイチンやグリコサミノグリカンとはこれら軟骨の主要構成成分であり、これらを摂取することによって、軟骨の機能をより良く保とうというのがサプリメントが人気のある理由である。しかし、未だこれらサプリメントが有効であるとの強力なエビデンスは無い。

 


へパラン硫酸と軟骨

肢芽特異的Ext1-cKOマウス
肢芽特異的Ext1-cKOマウス

 ヘパラン硫酸も上記コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸と同じグリコサミノグリカンに属し、軟骨では細胞表面や、細胞外マトリックス(ECM)に存在することがわかっている。このヘパラン硫酸は、ヒトではEXT1EXT2が二量体を形成し合成されることがわかっており、そのどちらかの遺伝子が欠損するとへパラン硫酸は全く合成されないことから、EXT1あるいはEXT2はヘパラン硫酸合成には不可欠な遺伝子であると言える。

 我々は、Ext1コンディショナルノックアウトマウスを使用し、肢芽特異的にExt1遺伝子をノックアウトすると、手足の短い、関節形成の阻害されたマウスが生まれてくる。これらの事実は、ヘパラン硫酸(or Ext1)が、肢芽の発生に重要な働きをしていることを指し示している。

 また、後述するように、ヒトではこのEXT1(もしくはEXT2)の遺伝子変異が遺伝性多発性外骨腫(MHE)を引き起こすことがわかっており、これらの事実から、ヘパラン硫酸は正常な四肢の形成には必要不可欠な分子であると言える。

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